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英語学習書の編集者とネイティブ校閲者による英語やアメリカ文化の解説ブログ

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【ネイティブ監修】「Blackとblackの違い」やN word...「黒人」を表す表現

本記事では「黒人」を意味する英語表現を学んでいきます。時代とともに色々な表現が使われ、受け止め方が大きく変わってきました。

 

それぞれの語の変遷をたどるなかで、適切な表現を学んでいきましょう。

 

 「黒人」を表す一般的な語=Black

現代社会において、「黒人」を表す中立的な語はBlackです。African Americanアフリカ系アメリカ人)もよく使われますが、今ではBlackのほうが適切とされています。

 

2000年代前半に出版された資料で、「blackよりAfrican Americanのが好ましい」と紹介されているのをよく見かけますが、受け止め方が変わってきたのです。

 

昔の資料を見ると「blackに侮蔑的な意味がある」という記述を見かけることも。でも現在ではBlackはまったく問題はなく、むしろ「黒人」を意味する最適な表現と言えます(詳しくは後述)。

 

Negroは差別表現

N wordと婉曲的に表現されるNegroは黒人を差別する侮辱的な語で、使うべきではありません(n***erはもっと差別的な語)。

 

Negroは元々スペイン語ポルトガル語で「黒い」という意味で、イギリス人がスペインとポルトガルを統治していたときに使い始めた語です。当時は侮蔑的な意味はなかったとされています。

 

アメリカの権威ある辞書であるMerriam-Websterは「Negro and Negress」と題して、この語について詳しく解説しています(日本語は筆者訳)

The terms Negro and, to a lesser extent, Negress were formerly in common use, but began to fall out of favor in the 1960s, and by the 1980s had largely been replaced in nonhistorical contexts by Black and African American.A few organizations continue to use Negro in their names, reflecting the historical preference for the term: the full name of the UNCF, a philanthropic education organization founded in the mid-20th century, is the United Negro College Fund, also called the United Fund; (-In summary-)The use of Negro in these contexts and others like them is not regarded as offensive.Both Negro and Negress are sometimes used by Black people in self-reference, but use of either term by others is offensive.

(訳)Negro(または、使用頻度は下がる同義語Negress)は、以前は一般的に使われていましたが、1960年代に好意的に受け取られなくなり始めました。以降、1980年代までには歴史的な文脈でないときはBlackやAfrican Americanに大方言い換えられるようになりました(歴史的な文脈で必要な場合はNegroNegressを使うことがある)。Negroという言葉が持つ歴史的な文脈を考慮して団体名にNegroを使い続けている団体もあります。例えば、20世紀半に設立された慈善的な教育組織であるUNCFの正式名称はUnited Negro College Fund(the United Fundとも呼ばれる)です。(中略)こういった文脈でNegroを使うのは攻撃的と見なされません。時折、黒人の方々が自らを言及するときにNegroやNegressと言うこともあります。

 

まとめると、以下の通りです。

  • 昔はNegroは一般的に使われていた
  • 現在では基本的に使われなくなり、BlackやAfrican Americanに言い換えられている
  • 団体名の一部としてNegroという言葉と使い続けている組織もあるが問題ない
  • 黒人の方々が自らを指してNegroと言うこともある

19世紀後半から20世紀前半には、Negroは好意的に捉えられていたのです。しかし、植民地統治において使われてきた背景を考えると、不適切と考えられるようになりました。

 

「黒人の方々が自らを指してNegroと言うこともある」のは事実ですが、それは彼らのアイデンティティを表すときに使うシーンがあるのであって、日本人の我々が真似して使うのは不適切です。

 

 

「黒人」を表す語の変遷

「黒人」を表現する単語の変遷は複雑なので、ここで時系列にまとめてみましょう。

 

19世紀後半〜20世紀はじめ Negro=良い印象を持つ言葉

(ただし、白人が使うn**raやn***erは侮辱的な言葉だと捉えられていた)

     ↓

1950年代  black=侮辱的な言葉

Negrocolored peopleが好ましいとされていた

(W・E・B・デュボイス(アメリカの社会学者であり公民権活動家は、colored peopleよりNegroが好ましいと主張していた。現在ではcolored peopleは避けられる)

 

     ↓

1960年代(ごく短期間)Afro-Americanが普及。じきに廃れ、blackが好まれるようになった。

 

1980年代 blackAfrican Americanが中立的な表現として定着する

     ↓

2020年頃  Black Lives Matterをきっかけに、頭文字を大文字にしたBlackが広まる

(参考資料:『黒人差別とアメリ公民権運動』(集英社新書/ジェームス・M・バーダマン著)とMerriam-Webster、『オーレックス英和辞典』(旺文社))

 

Black Lives Matter! blackからBlackへ

2020年以降、「黒人」を指すblackについて、1文字目を大文字にする動きが広がっています。

 

Black Lives Matterの運動を背景に、AP通信が公式のスタイルとして、Blackを使うことを発表し、New York Timesなどの他のメディアも賛同しました。

 

APスタイルはTwitter(現X)で、このように発信しました。

訳:APスタイルは、人種、倫理、文化的な観点からBlackと大文字で表記することになった。そうすることで、アフリカ系移民やアフリカに居住する方を含めた黒人の方々が持つ、歴史やアイデンティティ、コミュニティに関わる重要で共有された意識を伝えていく。

 

なぜAP通信はbではなくBにするのか、こちらに詳しい見解が掲載されています。

apnews.com

 

記事を読むとわかるように、AP通信をはじめとしたメディアは、bをBに大文字化することで、彼らが奴隷として迫害された歴史と、彼らの文化や伝統を尊重する姿勢を表現していこうとしているのです。

 

こちらの翻訳会社さんの記事に詳しい考察が書かれているので興味のあるかたは是非読んでみてください。

japan.wipgroup.com

 

新たにbrownも使われるように

校閲のBrookeさんによると、最近では黒人の方々をBlack and brownと呼ぶ人も増えているそうです。この場合、BlackのBは大文字で、brownのbは小文字になります。

 

brownには、様々な背景、人種のルーツをもった人に配慮する意味が込められています。

 

編集者 後記

日本に住んでいると、日常生活のなかで他の人種の方々と接する機会がないという方もいるかもしれません。
 
対極的に、アメリカなど多民族国家は、「人種のるつぼ」と称されるように多様な人種の方が居住しており、そのなかで特に「黒人」の方々に対する差別は大きな問題となってきました。
 
2020年にBlack Lives Matter運動が盛り上がる発端となったジョージ・フロイドさんの事件が象徴するように、現在でも差別はなくなっていません。
 
差別を許さない意識は、それぞれが発する言葉に表れるはずです。自分の口から表現される言葉がどんな意味を持ち、相手にどんな印象を与えるのか、「黒人」を表す表現ひとつをとってみても丁寧に考察し、責任を持ってその言葉を使っていきたいと感じます。
 

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編集者 連載記事

ベレ出版さんのnote記事で連載を担当しました。アメリカ、中国、日本の言語、文化比較をしています。

note.com

 

 

ライティング、編集:余田志保

英文校閲&解説協力:Brooke Lathram-Abe

 

ネイティブ校閲者について

Brooke Lathram-Abe (ブルック)
文学修士

編集・校正・翻訳及び英会話・ヨガの指導を行なっている。
編集業に関しては、主に英語教育での仕事に熱意を持って取り組んでいる。
株式会社三修社株式会社KADOKAWA、IBCパブリッシング株式会社などの大手出版社の依頼を受け、これまでに多くの書籍の制作に携わってきた。